身近な人、大切な人が亡くなった場合、多くの人が深い悲しみを心に抱えます。
この記事では、死別の悲しみを受け止め、悲しみに適応していく対処法をご紹介します。
メンフィス大学心理学部教授の、ロバート・A・メーニヤーの著書「大切なものを失ったあなたに」より、喪失に適応するための10のすすめから引用したい思います。
心の痛みに向き合い、自分らしく悲しみと歩む方法のひとつになれば幸いです。
1.小さな喪失を丁寧に受け止める

友達が引越すときは、温かく見送り友情を伝えましょう。住み慣れた家が手狭になったとか、広すぎるという理由で自分が引越すときは、去り難い気持ちや寂しさを一瞬でも噛みしめましょう。こういうことが、やがて来るもっと大きな喪失のリハーサルになります。
「大切なものを失ったあなたに」より
物心ついた頃から、誰もが喪失、広い意味でのグリーフを経験されていると思います。
小さい頃に大事にしていたものがなくなったこと、付き合っていた人との別れ、卒業、引っ越し・・・
そうして私たちは、永遠に続くものがないことを知ります。
小さな喪失を丁寧に受け止めることは、知らず知らずのうちに、私たちの心の内に積み重なり、大きな喪失に備えるための、心の準備になります。
もしあなたが、まだあなたにとって大きな喪失を経験していないなら、小さな喪失を丁寧に受け止め、その感情をかみしめることは、きっと将来あなたの支えになります。
2.痛みを味わう時間を持つ
大きな喪失を体験すると、片づけなくてはならない実務的な問題が次々に持ち上がり、誰にも邪魔されない静かな時間や黙想する機会を合間合間に見つけるのは難しくなります。
「大切なものを失ったあなたに」より
納棺、通夜、葬儀、火葬、収骨、法要・・・弔いのプロセスは瞬く間に進行してゆきます。
なかには、死別の悲しみを隠し、周囲に気を遣わせないように気丈に振る舞う人もいらっしゃるかもしれません。
その振る舞いは、一時的には自分の心を守ることができます。
ですが、ずっと痛みを感じないままにしておくと、ネガティブな気持ちも、ポジティブな気持ちも、あらゆる感情を感じる力自体が弱まってしまいます。
生涯にわたって、自分の心を守るという意味でも、死別後はしっかりと悲しむ、痛みを味わう時間を作ることが大切です。
3.健康的なストレス解消法を見つける
転機にはストレスがつきものです。建設的な方法やさまざまな活動、スポーツ、リラクゼーション、祈りを捧げることを通してストレスに対処しましょう。
「大切なものを失ったあなたに」より
大切な人を見送った後、世界が凍り付いたように感じることがあるかもしれません。
耐え難い苦痛により、自分の時間は止まってしまったのに、周囲が時を刻んでいるのが奇妙に感じられるような気持ちです。
そんな時に、また自分の歩みを少しずつ始めるためには、自分が何によってリラックスできるのか、普段からよく目を凝らしておくことが必要です。
例えば、あたたかい飲みものを飲んだ時、日向でうつらうつら眠る時、自然の中ほほに風を受けて歩くとき・・・
人ぞれぞれが持っている、自分の気持ちが、ほっとゆるむような瞬間を、探してみて欲しいのです。
ただでさえ辛い時期、張りつめたままの気持ちは、あなたの体力を奪い、心身ともに酷く疲れさせてしまいます。
自分のお守りとなるような、気持ちをゆるめられる方法を、見つけてみてもらえたら嬉しいです。
4.喪失を理解すること

喪失について考えるのをやめようと思わなくてもいいのです。むしろ執着しましょう。辛いイメージを消去しようとすればするほど、そのイメージが影響力を持ちます。
「大切なものを失ったあなたに」より
身近な人、大切な人を失った悲しみを受け止め、悲しみにゆっくりと適応していく過程は、自分自身と向き合う時間でもあります。
その時に役立つことのは、時間もそうですが、グリーフケアの知識も、あなたを支える力になってくれます。
例えば、地図がないまま森に迷い込んだら、不安で仕方ないかもしれません。
では、そこに地図があればどうでしょう。
今どこにいるのか、どこへ向かって歩けばいいのか、それが分かるだけでも安心です。
あなたにとっての地図が、グリーフケアの知識です。
喪失から目を背けるのではなく、喪失を理解すること。グリーフケアの知識は、この先長い道のりを歩むあなたにとって、きっと力になります。
地方自治体、遺族支援に関わるNPO、民間のZoomオンラインセミナー、カウンセラー、多くのサポーターが必要な情報提供を行っています。
5.周囲を信頼し、頼る
誰かと一緒に背負えば重荷も軽く感じます。その誰かを探しましょう。
「大切なものを失ったあなたに」より
まず、身近な人、大切な人を失った感情は、とても個人的なもので「お気持ちよく分かります」と言って、簡単に理解できるものではありません。
それでもなお、周囲を信頼し、頼って欲しいのは、ただそばに一緒にいてくれる人、思いを分かち合い、寄り添ってくれる人の存在が、あなたの苦痛をやわらげることもできるからです。
例えば自助グループで、近しい境遇の遺族同士で話した時に、あなたはその人の気持ちが自分のことのように感じたり、安心感を感じることもあるかもしれません。
周囲を見渡し、あなたの話を、偏見なく、ただただ聞いてくれる人に、頼ってみてください。
6.誰かを従わせようとする必要はありません
喪失体験者は人それぞれのやり方で、個々の事情と合わせてグリーフに向き合います。自分の喪の服し方を押し付けるのはやめましょう。
「大切なものを失ったあなたに」より
家族などの間柄で何人かがグリーフを経験すると、それぞれの向き合い方の違いが気になることがあります。
「私は毎日こんなに泣いているのに、あの人は涙ひとつ見せずに仕事に没頭している」
「大人しい子どもだったのに、急に問題を起こし手がかかるようになった」
例え家族であっても、グリーフとの向き合い方は人それぞれです。
向き合い方が異なるからと言って、悲しんでいない、ということではありません。
それぞれが、自分なりの方法で、大切な人を失った悲しみと向き合っているのです。
7.自分にとって有意義な方法で節目を過ごす
命日には、必ずお墓参りをするという人がいます。
お墓参りをすることで、大切な人へ気持ちを伝え、自分自身の気持ちとも向き合う、そんな時間にされているようでした。
亡くなった人とのつながりを、ひときわ感じる時期に、心身に不調をきたすご遺族は多く、そういった節目にどう向き合うかは、大切な人をどう供養するかと通ずることがあります。
節目とどう向き合うかは、亡くなった人とどう向き合うかです。
気持ちが揺らぐ時期なので、体調に気を配りつつ、自分らしい節目の過ごし方が見つかるよう祈っています。
8.変化を受け入れる
人生の中心にいた人を失い、自分の役割を喪失することは、その人を変えてしまう出来事です。
変化を大切にして(中略)かつての自分の一部が失われたことも認めましょう。
「大切なものを失ったあなたに」より
遺族会に長く参加していると、死別直後の遺族と、死別から何年か経った遺族とが、同じ会に集うことがあります。
死別から何年か経った遺族が、死別直後の遺族の話を聞いて初めて、自分も過去同じ状況にあったと思い返す時、少し遠くに来たのだと気づくと言います。
ずっと変わらず苦しい気持ちでいたけれど、知らないうちに、少し遠くまで歩いてきたのだと。
自分はずっと変わらない、のでしょうか。変わっていくことを、受け入れることも大切なことです。
9.喪失を経てあなたが得たものを考える

この喪失を経験するまで、あなたはこの世にこれほどの悲しみがあるとは、知らなかったかもしれません。
遺族の立場になって初めて、これまで喪失を経験した人へ、心無い言葉を掛けていたことに気づくかもしれません。
救いを必要とする人へ、手を差し伸べることができるようになったかもしれません。
喪失からあなたが得たものにも、目を向けてみましょう。
もちろん、今手にしたもの全てを捨ててでも、大切な人を失わなかった過去へ戻りたいというあなたの意思も、大切な気持ちです。
10.精神的な拠り所を探してみる
喪失は、これまであたりまえだと思っていた宗教観、哲学的な信仰を見つめなおし、考え直す機会です。
「大切なものを失ったあなたに」より
拠り所とは、心の支えになるものです。ひとつでなくても構いません。支えるものがたくさんあればあるほど、心は頑丈になります。
あなたが今持っている心のよりどころがあるなら、それを強化してみる。
新しいつながりの中で、自分の気持ちに合うものを見つけてみる。
あなたが、ゆっくりと悲しみを受け止めながら、自分のペースで歩みを進められるよう、心から祈っております。