(一部刺激的な内容が含まれている可能性があるので注意してください)
エンバーミングとは
エンバーミングとは、遺体を消毒・殺菌・防腐処置、また必要に応じて修復することで長期的な保全を可能にする化学技術です。
人が亡くなった時に自然と始まる細胞分解を遅らせるために、体に防腐液を入れます。その処置により、死後に起こる体の変化を遅らせ、生きている頃のようなほんのりピンク色の肌、損傷の酷い見た目の影響を取り除くこともできます。
「まるで、今にも起き上がって私の名前を呼びそうだ」
「闘病でやつれた顔が、元気だったころに戻っている」
「あんなに酷い事故だったのに…傷も目立たなくなっている」
コミック「死化粧師」のモデルになった橋爪 謙一郎さんの著書「エンバーマー」より
エンバーミングが選ばれる理由
闘病でやつれた姿を元に戻してあげたい
人は亡くなると、生きていた頃の表情や顔つきと全く違って見えることがあります。
エンバーミングは、故人の姿をできるだけ生前に近い状態に修復し、健康で安らかに眠っているような印象を与えます。
例えば家族が病気で愛する人を失った場合、悲しみに暮れる遺族にとって大きな慰めになることがあります。
事故による損傷を何とかしてあげたい
エンバーミングは、身体への損傷被害の大きい病気、災害、事件事故で愛する人を失い、死ぬ前に別れを告げる機会を得られない家族にもひとすじの光をもたらす可能性があります。
激しい損傷を負った人々に、見た目の印象を取り除くことができます。
時間に縛られずゆっくりお別れしたい
エンバーミング処置後は10日から2週間はそのままの状態です。
そのため海外など離れた場所にいてすぐに駆け付けられない場合でも、葬儀に間に合わないといったことがなく、お別れまでの時間を十分に確保することができます。
冷たいドライアイスをのせ棺を閉じておく必要もなく、ほほに触れても冷たさや違和感がありません。
エンバーミングの手順

- 全身を消毒液で拭き清める
- 損傷がある場合、修復措置を施す
- 右鎖骨上部や太ももなどを1.5~2センチ切開
- 動脈への防腐液の注入と同時に静脈から血液を排出
- 切開部分を縫合、全身を洗い清める
- 衣服を着せ、化粧をして、顔を整える
エンバーミングに掛かる時間
エンバーミング処置自体は2~3時間です。その他、エンバーミング施設までの移動時間、待ち時間によります。
日本におけるエンバーミングで中心的な役割を果たしている日本遺体衛生保全協会(IFSA)の施設は全国に66か所あります。
日本のエンバーマーは、このIFSAの教育を受けた有資格者です。
エンバーミングの費用
アメリカだと平均500ドルから700ドル(5~7万円)です。日本だと15万円程度掛かります。加えてエンバーミング施設への交通費が掛かります。
エンバーミングの歴史
遺体の防腐処理と言えばエジプトのミイラが有名ですが、動脈注射による防腐処理は18世紀にイギリスで始まったと考えられています。
その後、アメリカの南北戦争で、戦死者が適切な埋葬のために家族の待つ故郷に帰れるよう使用され普及しました。
以来、現代のエンバーミングは、ホルマリン(ホルムアルデヒドの水溶液)やその他溶剤を混合した防腐液を動脈注射する手法が使われています。
エンバーミングと火葬率
日本は世界でも最も火葬率の高い国です。エンバーミングは認知度・普及率ともに高くありません。一方で、過去アメリカでは長く土葬がメイン、かつエンバーミングは一般的に行われてきました。
しかし2019年、アメリカの火葬率は54.6%に達しました。アメリカのNFDA(葬儀協会)によると、2040年には火葬の割合はほぼ80パーセントに達すると言われています。
火葬が増えた理由は、土葬より火葬のほうが安価であるコスト面や、環境への配慮(火葬が100%環境に優しい訳ではないが、ホルムアルデヒドを土中に埋める環境リスク)だと言われています。
ということは、エンバーミングの需要は今後減っていくのでしょうか。
もともと、亡くなってすぐ火葬(または土葬)される場合、エンバーミングが選択されないことが多いのは確かです。一方で、アメリカで広く普及してきたエンバーミングを火葬であっても選択する方もいます。エンバーミングの普及率、そして葬儀の方法自体、今後は移り変わってゆくのかもしれません。
エンバーマーとして働く女性のインタビュー
日本でエンバーマーとして働かれている女性のインタビュー記事です。こんな思いで仕事に向き合っていらっしゃるんだなあというのが分かって良記事です。
まとめ
元気だった頃の姿で愛する人と最期のお別れをしたいと考えるご遺族にとって、エンバーミングは選択肢のひとつとなりうる気がしますが、いかがでしょうか。
先に紹介した橋爪さんの著書の中の「すべての根っこにあるものは、エンバーミングはグリーフサポートの手段のひとつである」という言葉がとても印象的でした。